(熊本市中央区/5月21日)
「この麦わら帽子は何や」
【菓匠たてやま立山學さん】
「『千代セン飴』。唯一、俺は朝鮮飴が普通に出来ると思ったから、朝鮮飴にしたけど、『くず』が入っている。その『くず』を入れたら、腰が抜けるような感じ」
熊本県菓子工業組合が定期的に開催している『肥後菓子道場』です。加盟店が持ち寄った菓子を試食して意見を交わし、技術を高めようというものです。いつもは新作の菓子や、材料メーカーが新しい商品で作った菓子などが並びますが、今回はちょっと違います。これらは、明治時代に作られていた和菓子を再現したものです。
明治27年1月6日の『菓子覚帳(かし・おぼえちょう)』です。
当時の熊本の菓子職人が記したものとみられ、19ページの中にさまざまな菓子のレシピが記されています。
この明治時代の和菓子をレシピ通りに再現して、鶴屋百貨店で開催される『くまもと和菓子まつり』で披露しようと、職人たちの挑戦が始まりました。
尺貫法の重さの単位が使われているため、まずはこれをグラムに換算するところから始まります。
※1斤は160匁(もんめ)。約600グラム。1匁は3.75グラム。
【菓匠たてやま 立山 學さん】
「俺らは『目』(文目/匁)で習った。『斤(きん)』って書いてあると、『斤は600グラムだったよね』って感じ。「白砂糖、壱斤、これは『いち』だろう」
『いち』は『一』『壱』と二つの漢字があるため、読み解くのに、ひと苦労です。
【北川天明堂 北川 和喜さん】
「私はこれを『二』にしました」
ベテランは独自の判断で、卵の量を2倍にしていました。
【北川天明堂 北川 和喜さん】
「もっとみんなと共有しておけばよかったね」
【お菓子の彦一本舗 齊藤 仁昭さん】
「材料はシンプルで、卵と砂糖と粉だけ。全部1対1対1で書いてあった、そのまま作っています。やっぱり硬いっちゃ硬いんですけど、昔食べていたような懐かしい感じのお菓子ではありました。かめばかむほどうまい感じはしました」
この麦わら帽子のようなお菓子は水あめを使った『まんじゅう』です。水分が多いため、こんな形になってしまいました。水を少なくしてみると、丸い形になり、硬くなったそうです。
さらに蒸した『あんパン』と焼いた『あんパン』も作ってみました。
【菓子工房かずさや 中西 弘一さん】
「形がいい方は蒸して作ったものになります。こっちは焼いてみました」
(面白かね。どれが正解か分からんね)
「昔は、焼く技術より技術の方があったんじゃないかと思います」
【中原松月堂 中原 大松さん】
「配合通りでするとちょっと生地が硬いです。今、作っているのはハチミツも入っていますので、焼き色もある程度ついて、食べると意外とおいしい」
【お菓子の香梅 河上 芳信さん】
「『麦粉』と書いてあるので、カステラには中力粉、うどん粉を使って、麦粉の役割をして焼いています」
【菓匠たてやま 立山 學さん】
「解釈によって違う。全然違うね。個性があるね」
熊本県内のさまざまな菓子店が挑んだ明治時代の和菓子の再現。そのほとんどのレシピに共通していたのが「甘さ控えめ」という点です。
【お菓子のあさい 浅井 茂宏さん】
「甘味が少ないけど、意外とおいしいですね。今の自分たちの『ようかん』だと、グラニュー糖や還元水飴が倍以上入ってますけど。日持ちはしないと思いますけど、意外と今の人の口に合うかもしれないですね」
【菓匠たてやま 立山 學さん】
「白砂糖って、ものすごく高級な砂糖だったということで、(流通量は)少なかったと思います。ですから使う量も少ないわけです。その代わり、今度は水あめが多い。750グラムのもち米を石臼でひこうかと思いましたが、やめて、もち粉と白玉を使いました(一同笑)」
【菓舗梅園 片岡 圭助さん】
「ほんなこつ腰がなかね。う~ん、『うまい』とは言えんね。今の我々が使っている道具は約130年前にあったものと全く違う。粉類のひき方の粒子、そういうところで全く変わってくると思う。食べておいしくないものを売るわけにいかん。『レシピでは、こういうふうにできました』というのは展示はしてよい。『今の材料を使うと、こういうふうにできます』というのは販売してよいと思います」
明治時代のレシピの生地は柔らかくて締まりにくく、まんじゅうのあんを包むには技術が必要で、手間がかかったそうです。
今回、現代の職人たちが苦労したように、明治27年の『菓子覚帳』にも試行錯誤の跡がありました。131年前の職人の菓子に対する情熱を垣間見たような気がします。
【菓子処いしはら 石原 洋次郎さん】
「昔は作る時の道具も材料も違うでしょうけど、どうやって売りよったかな、包装形態なんかも。今はしっとり柔らかい状態で販売できる。これから先、お菓子は変わっていくでしょうから〈これから先、どやんなっとかな〉と考えながら、良か機会でした。昔のお菓子と今とこれから先とですね」
【福田屋 福田 聖也さん】
「30年ぐらい前に熊本市内の古本屋さんに入った時に見つけて。熊本のお菓子屋さんのレシピ帳だなということで、何げなく、その時に買っておいたんですけれども、30年たって、こういうふうに生かされて本当に良かったなと思います」
熊本県菓子工業組合が再現に挑んだ明治時代の和菓子。熊本市の鶴屋百貨店で11日から16日まで開催される『くまもと和菓子まつり』で展示されます。
鶴屋百貨店の『くまもと和菓子まつり』で販売されるのは現在のレシピで作られたお菓子ですので、お間違いなく。展示される明治時代の和菓子も一部は試食もできるそうですが、数に限りがあるため、ぜひ、お早めにご来場ください。
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